フェムテック専門のプレスリリース&企業情報サイト

REPORT/記事

CATEGORY

特集

全文掲載記事

【特集インタビュー/フェムテックプレス・スクープ】
たった一つの報道が誰かの人生を変えてしまう可能性がある。
間違いや偏見につながりやすい「思い込み」をなくすこと。

フェムテックプレス編集部

2023.04.28 10:00

ビジネスにアイデアをひとさじプラス————。
「フェムテックプレス」掲載のプレスリリースから、フェムテック・フェムケア業界の
トレンドワードをキャッチアップし、企業担当者にインタビューします。

Vol.02のキーワードは「無意識の偏見と報道」です。

フジテレビの夜のニュース番組「Live News α」のディレクター大沢さんに、報道視点で見た「フェムテック」、番組制作における「ジェンダーや多様性への配慮」、テレビ局での「男女の働き方」についてお話を伺いました。

【Profile】
株式会社フジテレビジョン
ニュース総局 報道局 報道センター ディレクター
大沢 理恵さん

【INDEX】

●世の中の人が元気になるような情報や映像を作り続けていきたい。
------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 
●「女性の権利促進」には根本的変革が必要。私たち報道でできることをしていく。
------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 
●間違いや偏見につながりやすい「思い込み」をなくすこと。
------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 
●ジェンダー関係なく相互理解に努め、相手のことを常に考える姿勢が大事。
------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 

世の中の人が元気になるような
情報や映像を作り続けていきたい。

—— お仕事について教えてください。

現在はフジテレビ系列の夜のニュース番組「Live News α」のディレクターとして、ニュース原稿を書いたり、取材に出たり、3~4分の企画を構成・制作しています。経済系がメインのため取材対象も企業や大学、研究所などが多いです。
テレビの大きな使命は、災害が起きた時の避難を促す報道や現場の状況を瞬時に伝えることですが、根本は番組を視聴してくれた方が元気になれる、何かの行動のきっかけになるような映像を届けたいと思って、日々仕事をしています。

—— 毎日様々な事件や出来事が起こりますが、ご自身のキャリアで転機になるような仕事とは?

AD時代は朝の情報番組を担当していました。その後ディレクターとして仕事をしているうちにフィクションよりリアル・ノンフィクションの面白さに目覚めました。2011年の東日本大震災をきっかけに、「日本経済をよくする仕事がしてみたい」と経済番組に異動しました。

—— 東日本大震災では現地取材に行かれたのでしょうか。

震災直後はいくら上層部にかけあっても女性は現地になかなか行かせてもらえなくて、私が現地に入れたのは震災から約1ヵ月後でした。報道の使命は、今必要な情報、正しい情報を届けることだと思っているのですが、それでも現場の状況が落ち着いてくると、他局や他の番組とは違う独自性を持たせた切り口はないかを考え始めてしまうのです。
震災で被災した方々に元気になってもらいたい、安否情報を知りたい家族や友人知人に必要な情報を届けたい。取材対象が少しでも傷つくような番組はにはしたくない。しかし、取材のしかたひとつで、被災された方々を傷つけてしまうことにもなります。誰のため、何のための取材なのか、差別化だけの切り口は必要なのか。報道のディレクターとしてこの先も悩み続けながら、仕事をしていくと思います。

「女性の権利促進」には根本的変革が必要。
私たち報道でできることをしていく。

—— 日本のフェムテック元年と言われている2020年以降、経済報道番組で「フェムテック」について取り上げられているのを目にしますが、大沢さん自身が認識したのはいつごろでしょうか。

はっきりとは覚えていないのですが、10年ほど前でしょうか。某局の夜の経済報道番組を担当している時、月経周期を管理できるアプリを取り上げたのが最初だったと記憶しています。

—— 10年も前だったんですね。ここまでの市場拡大には驚かれたのではないでしょうか。

「新しい言葉」というのは、日々生まれていて、テレビでも多用する傾向にありますが、「フェムテック」がこの2、3年で注目されたのは、「SDGs」「多様性」を注目し始めたからだと思います。
それまでは男性だけではなく、女性の中でも「月経はアンタッチャブルな領域」という考えがあったと。浸透してこなかったからこそ、8年近いタイムラグが生まれたのかもしれません。

また、世代による考え方の違いはあっても「生理をオープンにしていい」と考えている人が、若い世代に多いということを「Live News α」での取材で知りました。
私は女子だけ集められて「生理とは」を保健の先生から聞いていた世代でしたし、心のどこかでおおっぴらにするものではないという意識が少なからずありました。番組作りを通じて自分の意識のアップデートができるのはこの仕事のありがたいところです。

—— 今後のフェムテック市場の展開を読むとしたら。

現在、様々な業種の大手企業がフェムテックを福利厚生として社内に導入したり、新たに市場に参入したりと、成長はある程度見込まれると思いますし、女性活躍を推進していく上でも「女性の身体や健康」への理解や配慮は、今後も進んでいくでしょうし、必要だと考えます。
ただ、バイアグラをスピード承認した一方で、緊急避妊薬を薬局で買えるようにならないのが今の日本です。女性の権利の促進のためには、もっと根本的な部分から変えていかなければいけません。その本質を変えられるように、我々報道でできることをしていかなければならないと思っています。

間違いや偏見につながりやすい
「思い込み」をなくすこと。

—— 人権や多様性への配慮について、番組を制作する際、どのようなことを心がけていますか。

例えば出産シーンを撮影させてもらうという場合、カメラマンは必ず女性が立ち会う、というように「男性に入ってほしくない」場では女性だけの撮影クルーを組むことは、当たり前のように行っています。
ただ一方で、バランスを取ろうと努め始めているのも感じます。
例えば今回取材させていただいたアイムさんの「置きナプ」の取り組みでは、女性用トイレでの撮影があったので、撮影はカメラマンを含めすべて女性スタッフで伺いましたが、VTRの編集を担当したのは若い男性でした。

女性ネタだからといって女性目線に偏らず、男性の目線から見てどうなのか、そもそもどの程度知識があるのか、といったことを聞きながら一緒に作っていきました。女性向けのファッションネタであっても男性ディレクターが担当する、というようなことも割と増えてきている気はします。
あとは「ジェンダーによる役割の押し付け」につながるような表現は避けています。例えばですが「子どものお迎え」「料理」「介護」「掃除」のお手伝いサービスを受けられる、という説明をイラストで表現する場合、男女比を均等にするようなことは意識的にやっていますね。

—— 報道の自由という言葉がありますが、報道制作の立場から気を付けていることを教えてください。

たった一つの報道が誰かの人生を変えてしまう可能性があるということです。正しい情報を出すということは当然ですが、間違いや偏見につながりやすい「思い込み」をなくすことも常に気を付けています。
外見を揶揄するような発言が問題になった時も、あえてその発言そのものはニュースでは取り上げません。問題になったのは「発言した人の配慮に欠ける行為」であって、発言を受けた人をさらに苦しめるような内容を、再びテレビというメディアで出す必要はないからです。

ジェンダー関係なく相互理解に努め、
相手のことを常に考える姿勢が大事。

—— 現場で「男性と女性で仕事の違い」を感じることはありますか。

はい、あると思います。サポート的な仕事は、女性に回りがちなことなどまだまだあります。先に話をしました東日本大震災で現地入りが遅れた理由として、トイレ問題があります。
その昔、現場の張り込み取材の出先でトイレに行っていいのかわからず、1日ずっと我慢した経験がありました。今思えば、トイレに行ってきますと言えばよかっただけなのですが。
また、結婚・出産してからもディレクターという仕事を続けることができる人はほとんどいないのが現状です。今の番組は深夜の放送なのでいたし方ない部分もありますが、結婚して出産しても元の仕事に復帰できるよう、少しずつ世の中が変わりつつあるのと同じように、この業界でも変わっていく必要があると思っています。

—— 入社当時と現在で、職場環境や働きやすさなど変化はありましたか。

だいぶ変化したと思います(笑)。20年以上昔の話になりますが、月に100時間残業は当たり前でしたが、残業時間に厳しくなりましたし、今は残業もほぼないような状況です。昔のようなセクハラやパワハラが日常茶飯事だったような時代からは大きく変わっていると感じます。
コロナ前からテレワーク可という働き方を打ち出してくれたのが、今の番組の上司です。何か問題が起きた時も相談して改善してもらえるなど、風通しもよいほうだと思います。

—— 制作局によっても異なるかと思いますが、テレビ業界は男性が多いイメージがあります。

じつは今の職場は女性の割合が多いです。実際テレビ業界はあまり男性が入ってきていないのではないかと。後輩や部下は女性が多くてみんな元気です。一方で上司は男性が圧倒的に多いですね。
ジェンダーバイアスやジェンダー格差をなくすには、制度や働き方を改革することももちろん大事ですが、結局「人と人」なのでジェンダー関係なく相互理解に努めること、相手が気持ちよく過ごせるにはどう立ち回るかを常に考える姿勢が大事だなと改めて思います。

—— キャリアを積まれた今、ディレクターとして目指す未来は。

報道に来る前には、情報番組を担当していたので、事件、芸能、災害、あらゆるジャンルの取材やVTR制作に携わりました。取材対象が芸能人の場合もあれば、高校球児やスポーツ選手、学校の先生、大学生、子どもたち、一般の方々・・・あらゆるジャンルのいろんな人たちに会って、映像を撮らせてもらったり話を聞けるのがこの仕事の魅力です。とくにこちらの予想を超えた答えが聞けた時にはワクワクしますし、頑張っている人たちの取り組みなどを見ると、こちらが元気をもらうこともたくさんあります。

体力が許す限りは、「世の中の人が元気になる、笑顔になる」ような情報や映像を作り続けていたいですね。テレビはみんなが一緒に視聴できるのが強みであり、魅力だと思っていますが、テレビにこだわらず、その舞台がインターネットでもありだと思っています。

記事一覧にもどる

この記事の企業をCHECK!