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【特集インタビュー JCOM株式会社様】<前編>
「想い」と「共感」が交差する瞬間を、会社という場で──
J:COMフェムテックチーム「Audinary(オーディナリー)」が描く未来。

フェムテックプレス編集部

2025.07.25 16:43

ビジネスにアイデアをひとさじプラス——。
「フェムテックプレス」では、掲載プレスリリースをきっかけに、業界の注目キーワードを深掘り。企業担当者へのインタビューを通して、フェムテック・フェムケアの現場を紐解いていきます。

Vol.16のキーワードは「社員参加型プロジェクトのつくり方」。

「女性の健康課題は、女性だけのものじゃない」。
JCOM株式会社では、ある男性社員の“家族への想い”をきっかけに、社内フェムテックプロジェクトが立ち上がりました。
共感の輪は少しずつ広がり、今では性別や部署を超えて関西・九州の拠点やグループ会社へと展開。
展示イベントやミニセミナー、情報発信を通じて、“本音を話せる空気”を社内につくり出してきた1年2ヵ月。そこにあったのは、「変化は現場の気づきから生まれる」という確かな手応えでした。
社内文化を少しずつ動かしてきたプロジェクトチーム「Audinary(オーディナリー)」の想いと、他社が踏み出すための“はじめの一歩”につながるヒントをご紹介します。

【Profile】
JCOM株式会社
フェムテックチーム「Audinary(オーディナリー)」
(右から)鈴木 直也さん/関根 美佳さん
小橋 奈那さん/遠藤 友子さん

【INDEX】前編では1・2をご紹介。

1 違和感が、行動のはじまりだった──フェムテックを“自分ごと”にした瞬間。


2「話してもいいんだ」と思える空気が、社内を変えていく。


3「体験してもらうこと」が伝わる近道──フェムテックイベント「J:COM meets Femtech!」が生んだ気づきと共感。


4 本社だけでは意味がない。本音を話せる場を全国へ。


5フェムテックチーム「Audinary(オーディナリー)」に込めた願い──“ふつう”に話せる社会へ。


違和感が、行動のはじまりだった──フェムテックを“自分ごと”にした瞬間。

― フェムテックを社内事業に展開しようと考えたきっかけとは。

鈴木さん:きっかけは、妻の健康課題を間近で見たことでした。「病院に行った方がいいんじゃない?」と声をかけていたんですが、結果的には手術が必要になるほど深刻でした。
「テクノロジーの力があれば、もっと早く気づけたかもしれない」「もっと早い段階で“病院に行こう”という判断ができていれば、あそこまでつらい思いをさせずに済んだのでは」…そんな想いが、ずっと心の中にありました。

その経験をきっかけに、「会社として、女性の健康課題に対して何かできることはないだろうか」と考えるようになり、フェムテックについて調べはじめました。

― フェムテックの情報は、どのように集めたのですか。

鈴木さん:最初は展示イベントに参加しました。イスラエル発の生理痛を緩和するデバイスと出合って「こういった製品の使用が健康課題への気づきや、病院を受診するきっかけになるんだ」と実感しました。「ああ、これだ」と腑に落ちた瞬間でしたね。

― 私も展示会に行きましたが、情報感度の高い女性が多かったですよね。

鈴木さん:そうですね。初めて参加した時は、「男性の自分がいても大丈夫かな」と緊張しました。特に大規模なイベントは、そういった空気が強かったと思います。

そんな時、2023年11月に経産省のロビーでやっていた小規模展示を関根と一緒に見て、「これくらいの規模なら、男性でも気負わずに見られる」と感じたんです。「これなら社内でもできるかもしれない」と思い、帰り道に「社内でやってみよう!」と動き出しました。

まずは、正式なテーマとして扱う前に、私が所属していたイノベーション推進タスクフォースの中で、新規事業アイデアのひとつとして、フェムテックや女性の健康課題について少し勉強してみようと思ったんです。ちょうど社内で役員合宿があり、その場で資料を用意して発表したのですが、残念ながら「ちょっとよくわからないテーマだね」と見送られてしまいました。正直、悔しさもありましたね。

ただ、その時強く感じたのは、「トップダウンで進めるのではなく、まずは現場で共感してくれる仲間を見つけて、少しずつ広げていくことが大切だ」ということでした。

― イベント実施にあたり、会社の上層部をどう動かしたのでしょうか。

鈴木さん:イノベーション推進タスクフォースは、会長・社長直轄のチームでした。声を上げた時にはすでに仲間がいて、タスクフォースのリーダーからも「やってみたらいい」と、前向きな言葉をもらえました。
もちろん、会長や社長に提案するからには、否定的な反応も想定しながら、しっかりと準備を整えて臨んだのですが、しかし実際には、「それはぜひやるべきだ」と力強く背中を押していただき、活動は一気に前進しました。

弊社を含め、ケーブルテレビ業界全体は、依然として男性比率が高く、経営陣も男性が中心です。そうしたなか、「関心はあるけれど、何からはじめればよいのかわからない」という声を耳にすることも少なくありません。

だからこそ、J:COMが先陣を切って取り組み、社内外に向けてモデルケースを示していくことが重要だと感じました。それが、活動を大きく前へ進める原動力のひとつになったのだと思います。

「話してもいいんだ」と思える空気が、社内を変えていく。

― 女性の健康課題をテーマにした取り組みでは、社内の理解や共感を得るのが難しい場面もあるかと思います。そうしたなかで、どのように仲間を見つけていかれたのでしょうか。

鈴木さん:2024年1月、社内で利用していた情報共有ツールでプロジェクトメンバーを募りました。「女性の健康をテーマにしたイベントを企画中です。どんな関わり方でも大歓迎。宣伝だけでも、ちょっと興味があるだけでもOK」と呼びかけたところ、13名が「やってみたい」とアクションをくれました。

男女比はほぼ半々で、共感者の多さに驚きましたし、本当に心強かったです。「これは本格的に動かせる」と確信できた瞬間でした。もともとタスクフォースのメンバーだった小橋や関根は、「一緒にやりたい」とすぐ賛同してくれました。

そして、経産省のイベントを見学してから約4ヵ月後の2024年3月、ついに社内で初めてのフェムテックイベントを実現することができました。短期間でここまで形にできたのは、同じ志を持つ仲間たちがいたからこそだと感じています。

― 小橋さんがこのプロジェクトに興味を持たれたのは、どんな理由からだったのでしょうか。

小橋さん:参加の理由は二つあります。まず、自分自身の妊娠・出産を通じて、心身の変化を強く感じるようになり、「女性の健康」に関心が高まったこと。
そしてもう一つは、親しい友人が子宮頸がんを患ったことです。「もっと早く声をかけられていれば…」と悔やむ場面があり、そうした経験から、「同じ思いをする人を減らしたい」と思ったのが原動力でした。

― 関根さんご自身や、まわりの方の健康課題について、これまで話題にする機会はありましたか。

関根さん:正直に言えば、これまでパートナーや家族と女性の健康課題について話す機会はあまりありませんでした。自分も課題を抱えていたはずなのに、それを「仕方ないこと」「我慢するもの」と思い込んでいたんですよね。
このプロジェクトに関わるようになって、初めて「話をしてもいいんだ」と思えましたし、「関心を持ってくれる男性もいる」と感じられたのは大きな変化でした。

チーム内では、どこまで自分の体験を話すかは自由で、「一般的にはこういうこともあるよね」と共有するだけでも大丈夫。その距離感を自分で選べる空気が、とてもありがたいですね。

「フェムテック」はビジネスの視点でも語られますが、それ以上に「個人の経験や想い」が色濃く出る分野。だからこそ、会社として事業化しても、喜んでくれる人がたくさんいると信じています。

― 女性の健康課題のひとつに「月経(生理)」がありますが、生理休暇など社内制度の利用状況について、プロジェクトの立ち上げ前後で変化を感じることはありますか。

鈴木さん:生理休暇の取得率等については、私たちの活動の数値目標として、あえて表立っては出していません。というのも、数値目標を掲げてしまうと、それが固定的なゴールのようになってしまう懸念があるからです。

イベントを開催すると、多くの男性社員が足を運んでくれます。アンケートでは毎回、「家族や同僚、部下に声をかけてみようと思った」といったコメントが寄せられます。こうした一人ひとりの気づきや関心の広がりが、制度の利用のしやすさにもつながっていくのではないかと感じています。

たとえば、男性社員の多い技術部門にも「女性活躍」に取り組むチームがあります。実は、そのなかで最初に“女性の健康課題に取り組もう”と提案してくれたのは、男性の上司でした。
こうした変化は私たちの活動だけの成果ではありませんが、全体的に少しずつ風向きが変わってきている実感があります。

IPPS(グループ会社)会場を視察する大庭社長(写真提供)

今年3月には、グループ会社でもフェムテックイベントを開催しました。社員の9割が男性という環境にもかかわらず、取締役や社長からは「これはやるべきだ」と即答いただき、とても前向きに取り組んでいただきました。
文化や価値観を変えていくことはもちろん重要ですが、それ以上に、「小さくても具体的なアクション」がさまざまな場所で生まれていくことが大切だということを目の当たりにして、そうした“小さなうねり”が、少しずつ、でも確実に広がりやすくなってきていると実感しています。

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