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【特集インタビュー 有限会社アジュマ取締役 北原みのり様】<前編>
「快楽も痛みも、あなたのもの」——ラブピースクラブが30年かけて問い続けてきたこと。

フェムテックプレス編集部

2025.10.08 10:00

ビジネスにアイデアをひとさじプラス——。
「フェムテックプレス」では、掲載プレスリリースをきっかけに、業界の注目キーワードを深掘り。企業担当者へのインタビューを通して、フェムテック・フェムケアの現場を紐解いていきます。

Vol.18のキーワードは「女性(わたし)を主語に性を語る」。

「語ってはいけない」とされてきたこと。性や快楽、そして生理や更年期といったからだにまつわる話題は、長い間、日本の社会で強いブレーキがかけられてきました。特に“痛み”や“違和感”といった感覚は、「仕方ない」という諦めに包まれてきた背景があります。
そんな沈黙の文化に対し、1996年の創業以来、女性のセクシュアルヘルスに正面から向き合い続けてきた、アダルトグッズショップ「ラブピースクラブ」。女性の声を起点に世界各国のセクシュアルウェルネス製品を日本に紹介してきた同社は、来年30周年を迎えます。
本インタビューでは、創業者・北原みのりさんが、当時誰もが語らなかったテーマに光を当てた原体験から、社会の変化、そして次世代へ託す想いを深く掘り下げます。

【Profile】
有限会社アジュマ
取締役
北原みのりさん

【INDEX】前編では1・2をご紹介。

1 「性って、何なんだろう」——問いから始まったラブピ―スクラブの原点。


2 “愛のかけら”に願いを込めて。名前に託したラブピースクラブの想い。


3「セクシュアルウェルネス」という言葉が変えた世界の空気。


4 女性のからだに寄り添うものを、女性の視点で届けたい。


5 “性って語っていい”——語れない空気をほぐす教育と地域のアプローチ。


6 語れる場所を、もう一度。原点に立ち返るラブピ―スクラブのこれから。


「性って、何なんだろう」——問いから始まったラブピ―スクラブの原点。

—— 来年で30周年を迎える「ラブピースクラブ」。北原さんの原点にある、性への関心や社会への問いは、どのように育まれたのでしょうか。

少し重たい話になりますが、私が大学に入学した年に、性暴力に関する大きな事件が2件起きました 。犯人が見つからない中で、女の子が次々に犠牲になる報道が続き、私自身も強い不安を抱えていました。
特にショックだったのは、一つの事件の加害者が私と同い年だったことです。

その時、「性って、何なんだろう」「どうして女の子ばかりが傷つくのだろう」「女性と男性とでは、性に対する見え方がまったく違うのではないか」。こうした問いが、次々と浮かんできました。

大学では性に関する勉強をしたいと考えていましたが、当時は専門に学べる学部が見つからず、教育学の中で性教育を学ぶことにしました。在学中は、漁るようにフェミニストの本を読んだり、女性たちの声に触れたりするなかで、性や社会への問いをより深く抱くようになり、「性に関する仕事がしたい」という気持ちは強く持ち続けていました。ただ、具体的にどんな道があるのか分からず、模索する日々が続きました。

ある時、まわりの同級生たちが次々と就職先が決まっていくのを見て、「私には企業勤めは難しいな」と思ったんです。年上の男性が苦手だったこともあって(笑)、それなら自分で仕事を作るしかないと考え、当時得意だったホームページ制作のスキルを活かして会社を立ち上げました。

——「ラブピースクラブ」を始めるきっかけについて教えてください。

最初からアダルトグッズに強い関心があったわけではなく、「性に関する仕事がしたい」という思いが、根底にありました。
女の子が性被害を受ける事件がある一方で、だからこそ「性に関して安心できる世界をつくりたい」という想いが、私の中では強くなっていったのです。
被害者としての語りと同時に、「自分の性を肯定し大切にする」という語りも、もっと社会に広がってほしいと考えていました。

そんな中、毎日のように海外のウェブサイトを見ていると、アメリカで女性が運営しているセックスグッズショップのサイトを見つけて、驚きました。「こんなことができるんだ! 私もやってみたい」──それが、ラブピースクラブを始める大きなきっかけになりました。

実際に、サンフランシスコとニューヨークのショップを訪ねてみると、プレジャーを肯定的にとらえ、堂々と発信しているその姿勢に、心から感動しました。
それまで日本で目にしてきたアダルトグッズショップは、どうしても“気持ち悪い”と感じられるものが多く、当時は「男性が女性を支配するイメージ」しかなかったのです。

ところがアメリカでは、イルカの形をしたやさしいデザインや、明るい色づかい、小ぶりで扱いやすいサイズの製品などが並んでいて、「バイブの形が変わるだけで、セックスのイメージも変えられるんだ」と気づいた瞬間でした。

誰が作って、どう発信するのかで、性の見え方はまったく変わってくる。それが私にとって、大きな気づきになりました。
「女性が作って、女性が販売する」──そのシンプルさに、心が惹かれました。そして、これはまさに、私がやりたいと思っていたことに近いのだと感じたんです。

“愛のかけら”に願いを込めて。名前に託した「ラブピースクラブ」の想い。

——「ラブピースクラブ」の名前には、どのような意味が込められているのでしょうか。

「ラブピース」は、直訳すると“愛のかけら”という意味です。アダルトグッズも、そうした愛のかけらであってほしいという願いを込めて、この名前をつけました。

「ピース」には、かけらという意味に加えて、環境団体である「グリーンピース」のイメージも重ねています。

グリーンピースが持つ“個人が社会を変えていく”という姿勢に共感し、「自分を愛そう」のメッセージを込めました。そして「クラブ」には、“仲間を作る場”という意味があります。

—— 事業はどのようにスタートし、広がっていったのでしょうか。

【オンラインサイト】https://lovepiececlub-shop.com/

ラブピースクラブは、もともとカタログ通販で事業をスタートしました。ネットショッピングが一般的ではない時代でしたが、1996年にはすでにオンラインサイトを立ち上げ 、おそらく日本で2番目か3番目にアダルトグッズをオンラインで展開したショップだと思います。
当時は、ネットでの買い物が「怪しい」と思われていたため、電話注文を受けたり、商品に手描きのイラストを添えたりと、手探りで丁寧な対応を心がけていました。

まずは「言葉で性のことを発信しています。カタログがほしい方はご連絡ください」という形で広めていきました。

やりたいことに賛同してくれる仲間の協力もあり、手紙やFAXなどで多くの人から連絡がありました。ラブピースクラブの活動への参加を呼びかける発信を続けるうちに、「私も関わりたい」という人が増えていったんです。
すぐに毎週1回勉強会を始め、「ここで一緒に話しましょう」と呼びかけました。1997年に本を出すことができ、その出版後には、一気に仲間ができた気がしましたね。

立ち上げて比較的早い段階で、女性ファッション誌から取材を受けたことも印象深い出来事でした。記事は製品ではなく、「女性が性やプレジャーを自らの言葉で発信し、社会とつながる仕事をしている」という私個人の活動に光を当ててくれたんです。このことが本当に嬉しく、「こういうテーマで働く女性がいてもいいんだ」という空気が社会に少しずつ生まれ始めていた時代だったのだなと、今振り返ると思いますね。

—— ラブピースクラブで発信している「語っていい」メッセージや、「快楽も痛みも、あなたのもの」という言葉に込められている想いとは何でしょうか。

私は、“痛みや不快な経験をしたことがない”という女性の方が、むしろ少ないのではないかと感じています。辛い経験がなかったと語れる人も、決して多くはないはずです。

そのような社会で、「性って素晴らしいものだよ」と良い面だけを強調して語ることが、かえって女性たちへのプレッシャーになることもあるのではないかと、私たちは考えています。だから、良いことだけを伝えるのは違うと、常に感じてきました。

しかし、性のことについて何も語らないというのも、また違うと思うのです。女性たちが経験する痛みや傷つき、そして楽しみたいという両方の感情を、同じ場所で話していい。そうしたメッセージを伝えたいと、いつも思っています。

ただ、このメッセージをわかりやすく伝えることの難しさは、ずっと感じています。特に、女性たち自身から「そんなプレッシャーになるようなことは言われたくない」という声を聞くこともあります。女性が性について語ることに対する、男性からの偏見は気になりませんでしたが、むしろ同じ女性たちから「それがプレッシャーだ」と教えられてきた部分も多くあります。だからこそ、性の持つ複雑さは、常に伝え続けていかなければならない大切な点だと考えています。

また、「性を安心して楽しむ」という表現には、特に強い思いを込めています。
「性」という言葉だけが一人歩きしてしまうと、私たちの意図が誤解されて伝わることもあります。だからこそ、「安心」や「安全」という前提が性にとってどれほど大切か、これをなくしては本当のプレジャーは得られない、と私たちは考えています。
そのため、「性を楽しみましょう」と言う前に、「性を安心して楽しみましょう」ということを、非常に意識して伝えているのです。それが、ラブピースクラブが目指している社会の姿だと考えています。

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