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【特集インタビュー 有限会社アジュマ取締役 北原みのり様】<中編>「快楽も痛みも、あなたのもの」——ラブピースクラブが30年かけて問い続けてきたこと。
フェムテックプレス編集部
2025.10.10 10:00
ビジネスにアイデアをひとさじプラス——。
「フェムテックプレス」では、掲載プレスリリースをきっかけに、業界の注目キーワードを深掘り。企業担当者へのインタビューを通して、フェムテック・フェムケアの現場を紐解いていきます。
Vol.18のキーワードは「女性(わたし)を主語に性を語る」。
【INDEX】中編では3・4をご紹介。
1 「性って、何なんだろう」——問いから始まったラブピ―スクラブの原点。
2 “愛のかけら”に願いを込めて。名前に託したラブピースクラブの想い。
3「セクシュアルウェルネス」という言葉が変えた世界の空気。
4 女性のからだに寄り添うものを、女性の視点で届けたい。
5 “性って語っていい”——語れない空気をほぐす教育と地域のアプローチ。
6 語れる場所を、もう一度。原点に立ち返るラブピ―スクラブのこれから。
“セクシュアルウェルネス”という言葉が変えた世界の風景。
—— 最近、海外の展示会に参加されたそうですね。「セクシュアルウェルネス」という言葉には、どのような印象を持たれましたか。

5月にヨーロッパの展示会を視察してきたのですが、現地の人たちが自分たちのことを「セクシュアルウェルネス業界」と呼んでいたことに驚きました。以前は「アダルトグッズ」や「アダルトエキスポ」といった呼び方が主流でしたが、確実に言葉の選び方が変わってきていると感じましたね。
この「セクシュアルウェルネス」という言葉には、暴力性を排除し、性的な営みを単なる嗜好品としてではなく、人生における大切な価値として捉える姿勢が込められています。私自身も、その考え方に深く共感しています。
ラブピースクラブで販売するアダルトグッズも、「使われるもの」ではなく「自分で使うもの」として届けたい。そうした意識へと変われば、女性たちが嫌な気持ちになることなく、もっと安心して手に取れるようになると考えています。
それは、私自身が使いたいと思えるものであると同時に、健康のため、そして快楽のためでもあります。女性にとって「快楽は必要ない」とされていた時代が長く続いたと思いますが、心地よさや楽しさは、心の健康、体の健康にとって本当に大切なことなんです。
こうした価値を伝え、発信し続けることによって、少しずつ社会の認識や価値観が変わっていくと信じています。私たちはヘルスとウェルネスを厳密に区別しているわけではありませんが、性は健康にとって非常に大切な要素であり、ウェルネスという言葉がその感覚に近いと感じています。
—— 海外と日本の展示会や市場には、どのような違いがありますか。
海外と日本では、まったく異なる空気感がありましたね。
例えば中国の展示会では、ラブドールなどの出展が多く、どうしても男性目線で作られた空間だと感じられました。
一方、ヨーロッパのショー、特にスペインの展示会で私が気に入ったのは、そうしたポルノ的な要素が一切ない点です。「セクシュアルウェルネス」というテーマのもと、空間も製品もとても洗練されていました。一つひとつの製品が堂々と展示されていて、誰もが性について自由に語り合えるような雰囲気だったんです。私はその雰囲気がとても好きでした。
この展示会は、バルセロナの歴史ある広場で開かれていました。スペインで2番目に大きな広場で、バルセロナの西の玄関口とも言われる集客の中心地です。そこで性に関する見本市が開催されているというのは、本当にすごいことですよね。歴史ある建物の中で、新作発表のようにブースが展開されていて、全体的に雰囲気がまったく違いました。本当に楽しかったです。
来場者の服装も非常にラフで、スーツ姿の人はほとんどいません。商談の場でありながら、誰もがリラックスしていましたし、女性の参加も多く、男女比もほぼ半々だったんです。
もちろん、ヨーロッパにも課題はあります。特に経営層にはまだ男性が多いのが現状です。それでも、そこに女性たちが多く存在することで、空間の空気が柔らかくなり、業界そのものの雰囲気を少しずつ変えていることを強く感じました。

展示会の様子(写真提供)
—— 海外と日本の展示会や市場には、どのような違いがありますか。
イギリスに行った際に、いくつかのデパートを回ってフェミニンケアの売り場を見てきました。その中でも特に印象的だったのは、ロンドンの老舗デパート「セルフリッジ」です。生理用品やローション、コンドームなどがごく自然に売られていて、きちんとコーナー化されていたのが衝撃的でしたね。
そして何より心を打たれたのは、製品を作る女性たちの情熱的な姿勢です。フェミニンケアブランド「YES」の創業者の一人であるサラ・ブルックスさんは、現在70代ですが、「もっと会社を広げたい」「もっと多くの人に届けたい」という情熱を今も持ち続けていらっしゃるんです。
日本の市場は小さいのに、「日本の女性にもちゃんと届けたい」と本気で考えてくださっている。その誠実な思いが、言葉の端々から伝わってきて、本当に胸を打たれました。
「膣の乾き」や「更年期のつらさ」といったテーマを社会に伝えるのは簡単ではありません。でも、だからこそ伝える意味があると信じて、彼女たちは取り組んでいる。
文化や国が違っても、女性として感じるモヤモヤや悔しさには驚くほど共通点があるんです。だからこそ、そうした感情が“共通言語”として通じ合えるのだと、強く実感しています。
女性のからだに寄り添うものを、女性の視点で届けたい。
—— 製品を選ぶ・届けるうえで、大切にされている視点は何でしょうか。
女性のからだに使うものだからこそ、女性が作ったものを選びたい。これが私の基本的なスタンスです。
言葉の表現にも、常に細心の注意を払っています。例えば、「これを使うとキレイになります」といった、どこか嘘っぽさを感じる言い回しは避けたいですし、「キレイでいなければならない」という無用なプレッシャーを与えるような表現も使いたくありません。
また、マスターベーションについても、「彼とのセックスのため」ではなく「自分のために」と伝えることを大切にしており、メッセージの主語は常に女性自身であることを意識しています。
発信するすべての言葉が、この視点に立ったものであるよう、丁寧に選ぶようにしています。
私自身が消費者でもあるので、「誰が作っているのか」「どんな成分か」といった視点も重要視しています。からだに使うものは、「安心できるかどうか」が最も大切だからです。
活動を始めた当初は、私自身も成分に無頓着でしたが、それが実は大きなリスクだったことを後になって痛感しました。今は、どんなケアが必要で、なぜそれが必要なのかを、できるかぎり丁寧に伝えるように心がけています。
最近では、ヨーロッパで工学部出身の女性がバイブを設計・デザインし、ブランドを立ち上げるケースもありました。最初から美しい名前と機能性を兼ね備えた製品が生まれているのは、大きな変化の一つだと思います。
そして、フェムテック業界には、女性の視点が欠かせません。私は「8割が女性でもいい」と思うほど、女性の感覚や経験が反映されることが重要だと考えています。安さや利益だけでなく、「安心して使えるもの」を誠実に届けていくこと。それが、業界全体の信頼を支える土台になると信じています。
——「フェムテック」という言葉の広がりについては、どう感じていらっしゃいますか。
この「フェムテック」という言葉が生まれたことで、「ようやく自分たちのやってきたことに名前がついた」と感じました。本当に嬉しかったですね。
女性たちの「困りごと」に寄り添い、解決する商品がどんどん出てきていると感じます。潤滑剤や更年期ケア製品が増えているのは、まさに身近な「目の前の危機」に対する解決策であり、本当に解決すべきことに光が当たっている証拠だと思います。
この変化の中で、女性たちが自ら発信しやすくなっているという点は大きいですね。女性たちが積極的に声を上げる方が増えてきたことは、私たちにとって非常に喜ばしいことです。フェムテックというキーワードができたことで、「仲間が増えた」という感覚があり、とても心強く感じています。
これまで、自分の仕事を表現するのが難しく、アダルトグッズ業界にいても「この人たちと仲間なのかな」と感じることもありました。しかし、女性たちがこの分野にものすごく増え、積極的に参加してくださっていることは、本当に嬉しい変化です。
もちろん、「フェムテックに男性が参入するのも良いことだ」という考えの方もいらっしゃいます。しかし、私は女性のからだに使うものだからこそ、当事者である女性が発信することが重要だと考えています。当事者の声が優先されなければ、それはおかしいと思うので、女性が起業してこの分野に入ってくるのは、とても良い流れだと感じています。
そして、そうした女性たちが諦めずに活動を続けていけるように、今度はエンドユーザー側の意識が高まっていくことが必要です。それはまさにメディアの役割だと考えていますし、その意識も高まってくれることを願っています。
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