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【特集インタビュー 有限会社アジュマ取締役 北原みのり様】<後編>「快楽も痛みも、あなたのもの」——ラブピースクラブが30年かけて問い続けてきたこと。
フェムテックプレス編集部
2025.10.14 10:00
ビジネスにアイデアをひとさじプラス——。
「フェムテックプレス」では、掲載プレスリリースをきっかけに、業界の注目キーワードを深掘り。企業担当者へのインタビューを通して、フェムテック・フェムケアの現場を紐解いていきます。
Vol.18のキーワードは「女性(わたし)を主語に性を語る」。
【INDEX】後編では5・6をご紹介。
1 「性って、何なんだろう」——問いから始まったラブピ―スクラブの原点。
2 “愛のかけら”に願いを込めて。名前に託したラブピースクラブの想い。
3「セクシュアルウェルネス」という言葉が変えた世界の空気。
4 女性のからだに寄り添うものを、女性の視点で届けたい。
5 “性って語っていい”——語れない空気をほぐす教育と地域のアプローチ。
6 語れる場所を、もう一度。原点に立ち返るラブピ―スクラブのこれから。
“性って語っていい”——語れない空気をほぐす教育と地域のアプローチ。
——ティーン世代に向けた教育活動にも取り組まれていますよね。「性を親子で語ること」や「子どものうちからからだを学ぶこと」の意義について、どのようにお考えですか。
私自身に子どもはいませんが、正直に言って「親子で性を語る」のは、とても難しいことだと思います。
それでも最近は、子どもと真正面から向き合って話そうとする親御さんが、少しずつ増えてきた印象があります。
特に男の子の親御さんたちが、「加害者にならないように」「被害にあった時にちゃんと伝えられるように」と考えながら、家庭の中に“性を語る空気”を育てようとしているんです。こうした小さな積み重ねが、性を語りやすい空気を育てているのだと実感します。
——「語れない構造」をほぐすために、大切にされている工夫やアプローチはありますか。
先日、知り合いの娘さんが通う高校で、性教育の授業に関わる機会がありました。 当日は、複数の講師でテーマを分担したのですが、私が担当したのは「同意」の話です。
セックスの話を正面からすると生徒は身構えてしまうため、あえて直接的な話はせず、「同意とは何か」という切り口で性教育を伝えようと工夫しました。

例えば、「物の貸し借り」の話から始めました。「友達に“貸して”と言われたけれど本当は嫌だった。断るとケチだと思われそうで、つい貸してしまった」。そんな経験、あなたにもありませんか? もしそれが返ってこなかったら、後悔が心に残りますよね。だからこそ、「断る力」を普段から少しずつ身につけておくことが大切だと伝えました。
さらに、「誰に」「何を」貸すかによって自分の対応が変わることを問いかけると、生徒たちは「なるほど」と納得してくれました。同意は人間関係の中で毎日経験していることだと、シミュレーションを通して体感してくれたようです。
そして、最後に伝えたのは、こうした“同意”の中で、最も難しいのが「性に関わること」や「自分のからだに関すること」だということです。
例えば「手をつなぎたい」と思ったとき、どう言葉にするか。とっさの場面で自分の気持ちを言葉にできるかどうか。それが、とても大事なことなんですよね。
同意は特別なことではありません。毎日の生活で何度も経験しています。だからこそ、いざという時のために、日常的にシミュレーションを重ねておくことが、結果的に自分自身を守ることにもつながるんです。
性の話はどうしてもセンシティブになりがちですが、だからこそ工夫して、「どこから話すか」「どう届けるか」を丁寧に考えることが必要だと、強く感じました。
語れる場所を、もう一度。原点に立ち返るラブピのこれから。
——現在、山梨でもショールームの立ち上げを準備されているそうですね。
そうなんです。山梨の事務所にある広い倉庫を活用して、現在ショールームづくりを進めています。場所は清里エリアで、日本で一番移住者が多く、しかも30代の子育て世代が多いと聞いて驚きました。
これまで現地で自分の仕事について話す機会は少なかったのですが、ある日パーティで「みのりさんって、バイブ売ってるって本当?」と聞かれ(笑)、「本当だよ」と答えると、「今度行ってみたい!」と返ってきたんです。そこから自然と会話が広がり、今では月に2回ほど性について語り合うワークショップが始まりました。
「夫婦の関係をどう築くか」「子育て中に性の時間をどう持つか」といった悩みや関心は、とてもリアルなものばかり。「みんな、本当はこういう話をしたかったんだな」と実感しています。
性の話題というと「専門知識が必要」と思われがちですが、実は「あ、それわかる」と共感できることが多いんです。だからこそ、一方的に教えるのではなく、「今日はこんなテーマで話してみよう」と、みんなで作るワークショップ形式が合っていると感じます。
「話したい人」も「聞きたいだけの人」も、どんな関わり方でも構いません。安心して集まれる場が、今、本当に求められているのだと思います。
——ラブピースクラブとして、今後はどのようなアクションを考えていらっしゃいますか。
山梨のショールームは、今年の8月にオープン予定です。以前、原宿の商業施設に入っていた店舗は、「語れる場」としての継続が難しく、残念ながら閉店せざるを得ませんでした。しかし、今回はその経験を活かし、もっと丁寧に、そしてお客様に継続的に寄り添える場所にしたいと考えています。
先日も、ラブピースクラブの商品を長年使い続けてくださっているお客様が、遠方から訪ねてきてくださいました。30年という長い間、事業を続けてきたからこそ、そうした“出会い直し”がある。今、改めてそれがどれほどありがたいことかと、深く感じています。
——社会における性と女性の現状について、どんな課題があるとお考えですか。
若い女の子たちが“商品”のように扱われたり、「キレイでいなければならない」というプレッシャーを日常的に感じていたり。そうした息苦しさは、社会にまだまだ根強く残っていると感じています。
だからこそ、何かを一気に変えようとするのではなく、原点に戻り、一人ひとりの“ピース=個人”と丁寧に向き合うことが大切だと考えています。ラブピースクラブを立ち上げた頃に目指していたことを、もう一度見つめ直し、これからの活動として具体的な形にしていきたいと思っています。
——ラブピースクラブが今後も大切にしていきたいことは何ですか。

これからも変わらず大切にしたいのは、「ここで買ってよかった」と心から思っていただけるような信頼です。お客様に対して常に誠実であること、そしてブレないこと。これがいちばん重要だと考えています。
また、基本的に弊社は社員もスタッフも女性だけで運営していますが、社会全体を見渡すと、女性の経済状況は依然として厳しい傾向にあります。
だからこそ、女性同士が助け合えるような働き方や、そうした組織のあり方についても、きちんと発信していける存在でありたいと考えています。
【Company Data】
1996年に女性のセクシュアルヘルス促進のためのプロダクトの輸入・販売小売り業としてスタートしました。生理用品から、セクシュアルプレジャートイ、近年は最先端のテクノロジーを利用し女性のセクシュアルヘルス・ライツを肯定し、悩みを解決するフェムテックプロダクトを中心にブランディング・輸入販売業を行っています。
Text:菅野由美香(フェムテックプレス編集部 編集長)
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