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【取材】お茶の水女子大学×株式会社LIXILが「トイレ」から始めるジェンダード・イノベーション

株式会社LIXIL

2026.03.17 14:08

水まわりはフェムテックの隣にある

フェムテックという言葉が広がり、月経や更年期、妊娠出産など、これまで語られにくかった課題が、昨今社会の議題になりつつあります。一方で、からだの困りごとはアプリやプロダクトだけで解決できるものではありません。日々の暮らしのなかで誰もが必ず使う場所――トイレ、洗面、浴室、キッチンといった水まわりの設計こそが、安心や尊厳、そしてウェルビーイングを左右する「生活インフラ」として、豊かな暮らしを営むために大切な役割を担っています。
そんな中、2024年に水まわり・タイル事業100周年を迎えた株式会社LIXIL(以下、LIXIL)と、2025年に創立150周年を迎えたお茶の水女子大学が、連携をスタート。
2026年2月24日、両者は連携キックオフシンポジウム「水まわりから考える未来の豊かな暮らしへ:共創によるジェンダード・イノベーション」を開催、当日は現地44名、オンライン71名の参加者が集まりました。
1部はLIXILの水谷優孝常務役員の挨拶と、お茶の水女子大学の佐々木泰子学長からは日本初の女性一級建築士として知られる浜口ミホ氏を中心にキッチンの歴史についての基調講演。2部はトイレを題材にジェンダード・イノベーションを「社会実装」へどうつなげるかについてのパネルディスカッションが行われました。

1部:水谷常務役員と佐々木泰子学長が語った浜口ミホ氏

【水谷常務役員の挨拶】

主催者挨拶でLIXIL・水谷優孝常務役員は、今回の連携を「水まわり商品の開発にとどまらず、社会のあり方や私たちが無意識に抱えるバイアスを見直す挑戦」だと位置づけました。象徴的な存在として浜口ミホ氏を挙げ、北側の暗く湿った台所で女性が孤立しがちだった状況を、ダイニングキッチンの発想と動線分析などの科学的アプローチによって変え、台所を家の中心へ引き出した革新だったと説明しました。その精神を受け継ぎ、お茶の水女子大学とともに、誰もが安心で心地よく自分らしくいられる住まいの風景をつくっていきたいと語りました。

【佐々木泰子学長の基調講演】

続く基調講演でお茶の水女子大学・佐々木泰子学長は、浜口氏を日本初の女性一級建築士として紹介しました。そのうえで学長は、核心は肩書きではなく、暮らしの中にある不平等を見つけ出し、科学的に捉え直し、協働によって社会実装へつなげた点にあると位置づけました。
フェムテックの観点から見れば、身体や生活の困りごとを個人の我慢に閉じ込めず、設計や制度の領域に引き上げる姿勢を戦後の時代に示した人物だといえます。

講演では、浜口氏が1915年に中国の大連で生まれ、1933年に東京女子高等師範学校の家事科へ入学したこと、女性が大学へ進学しにくい時代背景の中で建築を学び、設計事務所で経験を積んだことなどが語られました。住宅相談所の開設など、生活者に近い立場から住まいの改善に関わっていった点も紹介されました。

佐々木学長は、浜口氏が1949年(戦後4年目)に『日本住宅の封建制』(相模書房)を出版したことを起点に、当時すでに「生活様式は大きく変わっていく」という見通しを持っていた点を高く評価しました。住まいを感性だけで語るのではなく、科学的な視点を持ち、住まいを「研究」として扱っていた点が印象的だったとも述べました。
その後、浜口氏は1954年に日本初の女性一級建築士となり、1956〜57年頃にかけてステンレス流し台の量産化という技術的条件や戦後の住宅政策(住宅金融公庫、公営住宅法、日本住宅公団など)が重なったことで、ダイニングキッチン(DK)やシステムキッチンが社会に広がっていったと整理。ステンレス流し台は「作りたい」と言うだけでは実現せず、サンウェーブ工業(現在のLIXILにつながる系譜)の技術が加わり量産化が可能になったことが大きかった、という説明もありました。

佐々木学長はこの流れを踏まえ、ダイニングキッチンの誕生には産・官・学を含む「共創」が必要であり、異なる領域が結びつくことがイノベーションの始まりだと述べました。さらに、発見や提案にとどまらず「社会を変えるところまで行くことが真の社会イノベーションではないか」とし、浜口氏の取り組みは住まいの改良にとどまらず社会の変化へ踏み込んだ営みだったと結論づけました。最後に、キッチン革命は台所の変化だけではなく、家庭における女性の地位や家族メンバーの対等な関係性、近代的意識の醸成にも結びついたとまとめ、今回の連携もそうした社会変革までつながることを期待したいと締めくくりました。

2部:トイレは「からだ」と「社会」が交差する場所

2部のパネルディスカッションでは、トイレを題材にジェンダード・イノベーションを「社会実装」へどうつなげるかが議論されました。お茶の水女子大学は長澤夏子教授、藤山真美子准教授が、LIXILからは中村治之氏、丸茂友里氏が登壇。お茶の水女子大学からは、これまでのトイレは「男性/女性/多機能」と機能を分けることで課題を解いてきた一方、近年は子連れ、異性介助、セクシュアリティなどが重なり合うインターセクショナリティ(交差性)の課題が見え始め、単純な分類では対応しきれない状況が示されました。

共用(オールジェンダー)トイレについては、約1200名の調査をもとに、どこに設置しても受け入れられるわけではなく、コンビニや交通施設、公園など屋外では女性が避ける傾向があること、また安全性や視線への不安が配置の好みに表れることが共有されました。
またLIXILからは、タンクレストイレなどが空間の自由度を広げた歴史や、物流施設・銀行・観光地などでの実装事例が紹介されました。トイレは「社会の鏡」であり、混雑緩和や安心感、ウェルビーイングの両立を、思い込みではなくデータに基づいて設計していく必要がある――そうした方向で議論が整理されていきました。

学生の声:暮らしの記憶が「研究」とつながった瞬間

会場で学生に話を聞くと、このテーマが単なる専門領域ではなく、生活経験と直結していることがよく分かりました。
大学院(生活工学共同専攻)修士2年の学生は、藤山真美子先生の研究室に所属しており、先生からイベントを知ったといいます。自身の研究テーマはトイレではなく、都市の緑や「公共性と私的な性質が混在する空間」の形態に関するものです。
そのうえで、「始まる前は“何を研究するか”“製品開発にどうつながるか”という具体的な話だと思っていたが、実際は大学と企業がどこで相性が良いのかという土台を知る場だった」と話しました。キックオフらしく、まず共通言語を揃える回だった、という受け止めが印象的でした。


生活科学部人間環境科学科3年の学生は、大学のメールでイベントを知り参加したそうです。数年前に自宅リフォームで家族とショールームを回った経験があり、住まいづくりに関心があったことが参加の動機でした。「生まれる前のトイレの変化を知らなかったが、歴史を知る機会になった」と語り、さらに「昔、ひいおばあちゃんの家に洋式が一段高いところにあった記憶が、今日の話を聞いて“和式の名残だったのかもしれない”とつながったのが嬉しかった」と振り返りました。暮らしの記憶が、社会や技術の変遷と結びつく瞬間がそこにありました。

水谷役員が語った「拡散」の価値

シンポジウム後、株式会社LIXIL常務役員の水谷優孝氏(LIXIL Water Technology Japan トイレ・タイル事業部 事業部長)にお話を伺いました。印象的だったのは、「議論が拡散したことが良かった」という評価です。限られた時間のパネルで結論を急ぐよりも、まずは水まわりやトイレを多角的に捉え、論点を広げることに意味がある――そのうえで、4月以降に共同研究のテーマや取り組みを具体化していく、という考え方でした。
また今回の連携は、単発の限定テーマに閉じない点も特徴です。2〜3年ほどの包括的な枠組みの中で、まずはトイレを起点に研究を進め、必要に応じて洗面やキッチン、さらには住まい全体の「行動」にまで視野を広げていく可能性も示されました。
さらに水谷氏は、「フェムテック」「フェムケア」は近年広がった言葉である一方、浜口ミホ氏をはじめ、以前からジェンダーの視点で暮らしを変えてきた先人がいることにも触れました。言葉が新しくなっただけで、課題に向き合い実装していく姿勢は連続している。だからこそLIXILとしても、これからのジェンダード・イノベーションを、フェムテックの潮流とも接続させながら進めていきたい――そんな意志が感じられるインタビューでした。

LIXILのフェムテックに関する過去の取り組み

■LIXIL、慶應義塾大学 環境情報学部 中澤研究室と共同研究を実施
https://femtechpress.jp/19254/

■【特集インタビュー 株式会社LIXIL様】「ボディハグシャワー」は役割から離れて、自分自身に戻る場所
https://femtechpress.jp/18951/

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